Q&A

夫が愛人を作って離婚を要求していますが、私は離婚したくありません。不貞行為をした夫からの離婚請求は認められるのですか。

[離婚]

<ご回答>

1 不貞行為と離婚

 不貞行為は離婚原因(民法770条1項1号)に該当しますが、不貞行為をした有責配偶者からの離婚請求については、これを認めるかどうかにつき争いがあります。

本件においても、以下に述べるような判例の要件を満たすか、個別具体的な検討が必要です。

 

2 有責配偶者からの離婚請求

 従来は、最高裁は昭和27年の判例(最判昭和27.2.29民集6巻110頁)において「道徳を守り、不徳義を許さない事が法の最重要な職分である。すべて法はこの趣旨において解釈されなければならない」「勝手に愛人をもった夫からの離婚請求が許されるならば、妻は踏んだり蹴ったりである」(いわゆる「踏んだり蹴ったり判決」)と判示し、その後も長年にわたって判例上は有責配偶者からの離婚請求を否定してきました。

 その後、昭和62年に最高裁は、夫婦関係が破綻し、妻以外の女性と同棲関係にある有責配偶者(夫)からの離婚請求に対し、①夫婦の別居期間が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること②その間に未成熟の子が存在しないこと③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚を認容することが著しく正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと、といった一定の条件の下で、有責配偶者からの離婚請求も認められる場合があるとする画期的判決(最判昭和62.9.2・判時1243号3頁)(同居期間12年・別居期間36年・夫74歳・妻70歳)を出しました。

 現在は、不貞行為をした配偶者(有責配偶者)からの離婚請求について、判例は一定の要件のもとで認める方向になっています。

 

3 有責配偶者からの離婚請求が認められる要件

(1)別居期間

判例は、夫婦の年齢・同居期間に比して別居期間が長期に及んでいることを要件としています。当事者間の人間関係の中で、時間の経過が一方配偶者の有責性を風化させるという趣旨と思われます。

別居期間の判断するにあたっては数量的に対比するだけではなく、別居期間と両当事者の年齢及び同居期間、別居後の時の経過が与える当事者双方についての諸事情の変容などを勘案して、有責配偶者の離婚請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するという方向に変わってきました。

判例上は、7年半の別居で離婚を認める事案もあります(最判平成2年11月8日・判時1370号55頁)。(同居期間23年・別居期間8年・夫52歳・妻55歳)。この事案では、有責配偶者である夫は別居後も妻子の生活費を負担し、別居後まもなく不貞の相手方との関係を解消し、さらに妻に対して具体的で相応の誠意があると認められる財産分与の提案をしていたことから、夫に有利な事情が斟酌され、有責配偶者である夫からの離婚請求も認容されています。

しかし、約8年という事案でも「別居期間が相当の長期間ということはできない」として、棄却されている事案もあります(最判平成元年3月28日判時1315号61頁)(同居期間22年・別居期間8年余・夫60歳・妻57歳)。この事案では、有責配偶者である夫が別居期間中妻の生活を見なかったなど、背信性の高い事案であり、信義則上、別居期間8年では離婚を認めるべきではないという判断がされています。

上記のように、何年別居していたら離婚できるというような数量的な基準はまだ定まっていないのが実情です。別居期間のみならず、相手方配偶者の生活の保障の確立、有責配偶者の誠意ある対応の有無などもポイントとなってくるといえます。

 

(2)未成熟子の不存在

 判例は、未成熟子が存在しないことを要件としています。未成熟子とは、親の監護なしでは生活を保持しえない子どもをいい、裁判例をみると、高校を卒業する年齢くらいを上限としており、民法上の未成年者とは範囲が異なります。両親の離婚によって未成熟子の福祉が害されるような特段の事情がある場合は子どものために離婚を認めるべきではないという趣旨からこの要件が課されています。

 判例上は、未成熟子が存在していても離婚認容された事案(最判平成6年2月8日・判時1505号59頁)(同居期間14年11月・別居期間13年11月・未成熟子1名・17歳高校2年生)があり、未成熟子(高校2年生・17歳)がいても、未成熟子が幼少(3歳)から妻のもとで養育され、間もなく高校を卒業する年齢に達していること、夫は別居後に妻へ毎月15万円程度を送金していること、夫から妻へ700万円程度の財産分与を申し出ていることから、離婚後の未成熟子の生活を不安定にすることはないとして、離婚を認容しています。

 一方、上記判例と同様の別居期間13年で未成熟子が存在するにも関わらず、離婚認容されない事案(最判平成9年11月19日)(同居期間6年、別居期間13年、未成熟子2人・中学2年生と高校3年生)もあります。この事案では、離婚を請求している有責配偶者の有責性の程度、婚姻関係維持への努力の欠如、未成年の子どもが成人に至るまでに要する期間を総合考慮すると、離婚請求は未成熟の2人の子どもを残す現段階においては、未だなお信義誠実の原則に照らしこれを認容することはできないとしています。

 上記のように、未成熟子の存在のみをもって離婚請求を排斥するものではなく、相手方配偶者や夫婦間の子の利益などが総合考慮されます。

 

(3)配偶者の社会的・経済的に苛酷な生活

 相手方配偶者が離婚によって被る経済的不利益は、財産分与や慰謝料で解決される場合も多いですが、妻の側が経済的弱者であることや離婚に伴う人的環境が覆されること等を考慮して、社会的・経済的に苛酷な生活をさせるのは酷だという趣旨で、判例上、上記要件が課されています。

判例は、婚姻届提出後25年、別居期間16年の夫婦における夫である有責配偶者からの離婚請求について、婚姻生活は客観的に破綻していても、離婚請求を容認すると妻が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれることになるとして、離婚請求を棄却した事案もあります。

ページの先頭へ戻る