Q&A

夫である私が多額の負債を抱えたため、妻と相談し、債権者からの強制執行を免れ財産を守るために仮装の離婚届を出しました。債権者からの督促もなくなり、復縁したいと思っていますが、妻が拒否しています。離婚の無効を主張して婚姻関係を復活できるでしょうか。実は妻には愛人がいるようで、夫である私は騙された気がして、離婚を撤回したいです。

[離婚]

<ご回答>

1 仮装離婚の効力と離婚意思

(1)離婚意思

 本件では、自分の意思でいったん離婚届を提出した以上、その撤回は原則として許されないので、離婚は有効であり、離婚の無効を主張して婚姻関係を復活させることはできません。もし、妻が自分の意思で再婚に応じてくれるような場合はともかく、そうでない以上は、復縁は困難です。

協議離婚が有効となるには、離婚当事者に離婚意思が必要です。協議離婚は届出(離婚届の受理)により成立するので、離婚の意思もその届出時に存在することが必要とされ、届出の際に離婚意思がない仮装離婚は無効です。この点「離婚の意思」とは何をいうのか、下記のように学説が分かれます。

 実質的意思説は、離婚の意思とは、「実質的に離婚をする意思」であり、届出の際にこのような意思のない離婚は無効です。

他方、形式的意思説は、離婚の意思は「離婚の届出をする意思」であり、届出の際に届出の意思さえあればそれが便宜上のものであっても離婚は有効とします。

 判例は、一般的に、形式的意思説をとっていると言われています。最高裁判例では「方便のために離婚の届出をしたが、右は両者が法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてなしたものであり、このような場合、両者の間に離婚の意思がないとは言い得ない」(最判昭和38.11.28判時360号26頁)としており、当事者が離婚の届出を合意している場合は離婚意思が存在すると認定しています。

 よって、本件のように仮装離婚をしてもその離婚は有効に成立します。

 

(2)離婚が有効とされた具体例

 判例において離婚意思があると認められたのは①債権者か夫に対する強制執行を免れるために債務整理の解決を見るに至るまでということで協議離婚した事案(大審判昭和16.2.3民集20巻1号70頁)②債権者の追及を免れ、家産を維持するための方便として協議離婚した事案(東京地判昭和55.7.25判タ425号136頁)③単に戸主権を妻から夫に移すための方便として協議離婚した事案(最判昭和38.11.28判時360号26頁)④従来どおりの生活保護費の支給を受ける手段として協議離婚をした事案(最判昭和57.3.26判時1041号66頁)があります。

 いすれの事案も、「法律上の婚姻関係を解消する意思」をもって離婚意思と捉えた上で、離婚の届出がそのような意思の合致に基づいてされたものである以上、離婚を無効とできない旨を判示しています。②の事案は、「離婚の届出をする意思を有していた以上、真に法律上の婚姻関係を解消する意思を有し」ていたものとの認定がされており、形式的意思説になじむ判断がされています。

 

(3)離婚が無効とされた具体例

 離婚意思がないと判断された例としては、夫が妻に対し離婚届に署名するよう要求し、これを拒否した妻に対し茶碗等を手当たり次第投げつけるなどの乱暴な振る舞いをしたので妻がその場を収拾するためにやむなく離婚届に署名押印したところ、夫がそれを役場へ提出し受理された事案です(札幌高判昭和55.5,29判タ419号116頁)。裁判所は、協議離婚届の作成・届出当時、妻には離婚意思は全くなく、離婚届の署名も険悪な事態を収拾するための方便としてなされたものにすぎず、一方、夫も妻の意思を知っていたのだから夫婦間で協議離婚の合意が成立したとはいえず離婚は無効と判示しています。

 

2 仮装離婚と詐欺

 夫婦の一方が離婚したいがために、離婚を望んでいない相手方に対し、愛人がいることを秘密にしたまま、債権者からの追及を免れることが目的であると言って仮装離婚したような場合、離婚を望んでいない相手方は詐欺による離婚の取消をすることも考えられます。しかしながら、法律上詐欺取消を求めるには、詐欺を主張する側に立証責任が課せられるため、よほどしっかりした証拠がなければ主張は困難ですので、注意が必要です。

本件においても、妻に愛人がいるという疑い程度では詐欺取消は困難で、愛人の存在や不貞行為の内容を立証できる証拠が必要です。

 

3 仮装離婚と詐害行為取消権の関係

(1)離婚と詐害行為取消権

 債権者からの強制執行を免れるために仮装離婚して財産分与、慰謝料として財産を配偶者に譲渡し、財産の保全を図る場合、債権者から詐害行為取消権(民法424条)を行使される可能性があります。

 詐害行為取消権は「財産権を目的としない法律行為」(民法424条2項)は対象としていないので、離婚自体はたとえ仮装であっても取消の対象とはなりません。しかし、財産分与や慰謝料については、取消の対象となる可能性があります。

(2)財産分与と詐害行為取消権

 離婚に伴う財産分与については、判例では「民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大で、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情にない限り、詐害行為にならない」(最判昭和58・12・19判時1102号42頁)とされ、原則として財産分与は詐害行為取消権の対象になりません。財産分与は婚姻中の夫婦の共同財産の精算分配なので、外形的に債権者を害するように見える場合も実質的には債務者の財産を減少させるものでなく債権者を害する性質のものではないからです。

 しかし「特段の事情」があれば、財産分与も詐害行為取消権の対象となります。財産分与者が債務超過であるにも関わらず過大な財産分与をしたケースで判例は「財産分与として金銭給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分についてその限度において詐害行為として取り消されるべきものとするのが相当である」と判示しています(最判昭和58.12.19判時1102号42頁)。本件のような仮装離婚での財産分与であっても過大と評価された部分については詐害行為取消権の対象となる可能性があります。

(3)慰謝料と詐害行為取消権

 また、慰謝料については、相手方の有責行為によって被った精神的損害の賠償であり、慰謝料の合意は新たな債務負担はなく、詐害行為の対象とならないのが原則です。しかし、過大な慰謝料支払いの合意は「慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為」として詐害行為取消権の対象となります(最判平成12年3月9日判時1708号101頁)。

本件のような仮装離婚の場合は、慰謝料を支払う原因が発生しているかどうかも微妙であり、もし仮に相手方の不貞行為などを立証できた場合には慰謝料請求が認められる可能性もありますが、その額が過大な場合は詐害行為取消権の対象となる可能性があります。

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